エダマメ ビールのお伴、理由は諸説

●未熟な大豆を枝ごと取って食用にすることからエダマメに。平安時代ごろから、この食べ方があったらしい。豆名月など、古くから行事に使われてきた。

●全国で年間8万4200トンの収穫量がある(1994年)。県別だと千葉、新潟、群馬、埼玉県の順。東京市場への出荷量は群馬、千葉、埼玉県の順になっている。輸入は台湾、中国、タイ、米国などから。

●大豆には茶、青、黄、黒豆などがあり、黒豆のエダマメでは京都・丹波の「紫ずきん」がある。

●さやごとみそ汁にしたり、ご飯に炊き込んだり、つぶしてモチをくるんだりする食べ方もある。


 

 ビールにはエダマメがつきものだそうだ。

 暑い日に、冷えたビールをやる。茶の間、湯上がり、ステテコ姿、野球中継、ウチワ、風鈴、ついでに蚊取り線香、そしてエダマメだ。ビール党のおじさんには至福の時らしい。

 下戸の身には、理解しにくいところだが、実際に、気温が上がると、ビールの消費量が伸び、連動してエダマメの出荷費も増える。東京青果会社でエダマメを担当する柴本勲さん(31)は、「五月の連休前後からは予想気温を見ながら、エダマメの入荷量を検討する」と言う。

 なぜ、つきものなのか―。

 悪酔い防止説がる。たんぱく質や脂質、ビタミンB群などエダマメに多く含まれる成分が、アルコールの急激な吸収を防いだり、肝臓での分解を促進したりするそうだ。

 しかし、そうならビールだけでなく、日本酒や洋酒にもエダマメは「つきもの」であっていいはずだが、あまり聞かない。

 口に残るビールの苦みを、エダマメの甘味が消すという説もある。もっとも、これを教えてくれた山形大学農学部でエダマメも研究している笹原健夫教授(58)は、「科学的というわけではない」と笑う。「学生たちと、エダマメをつまみながら、ワイワイやっているうちに出てきた話で・・・」

 京都大学農学部の伏木亨教授(43)は塩分説だ。実験もした。

 ビールには、血液に必要なナトリウムがわずかしか含まれていない。だから、ビールを飲むとナトリウムが欠乏し、体が塩分を要求する。実験で、何人かの学生にビールだけを二本飲ませたところ、後で全員が塩辛いものに手を出した、という。

 日本酒や洋酒の場合、こうしたことは起きないそうだ。

 エダマメはゆでる時や、ゆでた後に塩をふる。「その塩分が、ビール党に好まれる。エダマメの表皮に塩が見えるぐらいついていると、なおいい」と伏木教授は言う。

 しかし、伏木説だと、ビールのつまみは、塩気があれば何でもいいことになってしまう。

 エダマメの甘さや香り、見た目、歯触り、舌触りなどは、ビールとの相性に関係がないのだろうか。伏木教授によると、「その辺は、まだわかっていない」そうだ。

 ビールにエダマメが合うわけを、周辺の左党にも聞いてみた。

「さやから豆をはじく感触がいいし、次のビールまでの絶妙な間になっている」

「口にした時ピリッとした塩辛さ、かんでからの甘さがいい」

「かみ砕いたツブツブが、のどに残るビールの苦みを洗い流す」

「わがエダマメ論」は、まだまだありそうだ。

 

冨樫家の種を伝承してきた代々の「ががちゃ」。

八恵さん(右)と裕子さん

女が育てる”憲法”が守る

 

 

 庄内平野が広がる山形県鶴岡市で七月末、恒例のエダマメ直売所がオープンした。「季節になったノ」。売るほうも買うほうも、めぐってきたエダマメの季節を喜ぶように声をかけ合う。

「だだちゃ豆」という。名前の由来はいろいろあるが、この地方の父親の呼称「だだちゃ」からきているといいう説が有力視されている。

 鶴岡藩主だった酒井家の十三代当主、忠篤公(一八五三~一九一五)が、贈られたエダマメがうまかったため、「どこのだだちゃが作ったのか」と尋ね、側近が「それは、どこそこの」と答えた。それで、という説だ。だだちゃは一家の主人とも通じる。

 庄内の農業を見つめていた日刊紙「荘内日報」論説委員長の松木正利さん(61)の見方はちょっと違い、「エダマメの中の主人としてつけられた名称ではないか。」

 食べてみた。甘みがあり、香りが口に広がる。なるほど、こういうのが「主人」の風格かと思ったら、地元の人は、まだ本物ではない、という。本物は八月中旬前後に出回る、「白山(しらやま)だだちゃ」だそうだ。


 

白山だだちゃの早生(わせ)が出た。新聞紙に包んで、しっかり抱えて/山形県鶴岡市で


本当は「ががちゃ豆」?

 

 JR鶴岡駅から南西に五キロほどの田園地帯にある白山地区で、白山だだちゃを作っている一人、冨樫孝一郎(76)宅に伺った。

 妻八恵さん(72)と娘の裕子さん(43)夫婦、お孫さんたちと暮らす。約五.五ヘクタールの耕地の大半で米、エダマメはそのうちの六、七アールで作るという。

 だだちゃ豆を作るコツなどを孝一郎さんに質問するのだが、どうも要領を得ない。すぐ、「どうだっけ」と八恵さんに助けを求める。そうか、ここでは男性陣は米作りを担い、エダマメなどの畑仕事は、女性たちの役割だったのか。

「なんと言っても大事なのは、種選びだろうノ」。やわらかい庄内弁で八恵さんが説明してくれた。

 まず、畑で良いさやがついた株を見つける。良いさやとは、豆が二粒入っていて、真ん中がくびれ、一本溝が通っているもの。一粒も三粒もだめだそうだ。

 十二月ごろから三月ごろまでの間に乾燥させた豆の中から一粒ずつ、良い種を選び出す。良い種のポイントは豊満ではなく、くぼみやしわがあることだ。八恵さんによると、これらが良い種になる理由はわからない。わからないが、こうしないと、「返(け)る」といって、まずい味に戻ってしまうと信じられている。

 八恵さんは嫁いできて義母に教えられ、義母はその姑(しゅうとめ)から伝授されたという。十年前から、八恵さんは裕子さんと一緒に種を選んでいる。

 山形大学の笹原教授は、だだ茶豆の特徴を〈1〉開花後にうまさのもとである特定のアミノ酸が増え、糖分が集積される、〈2〉連作が可能、の二点を挙げる。双方に弱いウイルスが関係しているとみられるが、笹原教授は「いずれにしても、長年にわたって種子を選抜してきた農民の英知の成果」と評価する。

「農民」は「農家の女性たち」では?名称も、お母さんたちを呼ぶ「ががちゃ」がついた「ががちゃ豆」かも。ふと、思ってしまう。


白山だだちゃの種。しわが多いほど上等だ


ふたを開けなくても大丈夫

 

 残念ながら、首都圏ではだだちゃ豆と、あまり出合えない。地元で消費されるのと、東京市場への出荷量が少ないからだ。各農家が独自の販売ルートを持っていたりする。冨樫家でも、首都圏の数百人の会員に毎年送る。

 個人商店的な印象のだだちゃ豆と対照的なのが、群馬県沼田市の「天狗(てんぐ)印枝豆」だろう。株式会社といった趣だ。

 六一年に設立された、農協とは別の任意団体「沼田利根蔬菜(そさい)出荷組合」があり、生産から出荷まで、統一された規格で、首都圏の市場に出している。組合員約五百人。

 九五年は六月からの五カ月間に、東京中央卸売市場に約千三百トン出荷した。これは市場入荷量のほぼ二〇%になる。

「品質管理が徹底しているから、天狗印は市場でふたを開けなくても大丈夫」と言われるほど、東京の市場関係者の信頼は厚い。値段も他の産地に比べ、二倍近いという。

「憲法」があった。

 毎年、組合員に示される「出荷に関する管理技術指導要項」のこと。いかめしいが、「これは、天狗印を守るための憲法」(組合主幹の大竹金雄さん)を突きつける。

「憲法」は生産、収穫、出荷の各段階で、減農薬や早朝取り、手もぎ、予冷の実践など細かい。

 特に重視しているのが鮮度の保持だ。時間の経過はもちろん、温度の上昇が劣化を招き、二五度で二日間おくと、糖分が半減するというデータもある。このため、予冷庫や保冷材を使った低温出荷を徹底させ、東京市場に着いた時点での目標温度を一八.五度に設定している。

 担当者が東京の市場に出向き、検温もする。予冷などで手を抜けば、一八.五度は保てない。生産者にすぐ「指導」や「忠告」が飛ぶ。

 組合の代表で、運営を担当する塩野商店の塩野力夫社長(55)は「これぐらい厳しくして、はじめて信頼が守られる」と言い切る。

 助成人が育てるだだちゃ豆と、「憲法」に守られる天狗印枝豆。食べくらべてみた。

 だだちゃ豆は、さやにごそごそした毛があり、茶豆だけに色も鮮やかではない。

 青豆の天狗印は色も形も見栄えがいいし、粒も大きい。

 味は、いずれもおいしい。だが、飲みつけないビールを口にしたためか、違いはどうにもわからなかった。